■ ぶらんくのーと スタッフインタビュー with ひまわり

本インタビューは、サークル ぶらんくのーと様作品「ひまわり」の序盤〜中盤にかけた一部ネタバレを含んでいます。
プレイをご検討の方は、本作品終了後にお読みになられることをお勧めいたします。

※こちらは虎通135号のp06〜p11に掲載された『ぶらんくのーと』スタッフインタビューの原文を引用したものです。
オリジナル性を出すため、原文の誤字や脱字などは可能な限りそのままにしてあります。


−−発売から約半年を経ての現在のヒットとなりましたが、どのように感じておられますか?

ごぉ:まずは信じられないという所ですね。最初は冬コミ(CM73)での頒布になるんですが、二百枚ぐらい持って行って、8割とか売れたら大成功だという気持ちでいて、実際8割にちょっと満たないぐらいかな?頒布出来たので、ああーよかったよかったと思っていました。そうこうするうちに、書店での取り扱いのご連絡もいただいて、その数もだんだんと増えてきて、ちょっと、大変なことになってきたなぁと思っていました。それでも通販や、店舗で売っていないけれどどうなっている?という問い合わせもお客様から頂いていて、どうしても対応が遅くなってしまって申し訳ないなぁという気持ちで・・・。

−−改めて ぶらんくのーと というサークルに関して、サークルの活動経緯を伺えますか?

ごぉ:サークルとしては4,5年前から活動していたんです。当時は二次創作の個人サークルでした。「ひまわり」の絵師のたつきちさんとは古い付き合いなのですが、その頃から個別に同人活動をしていて、ある二次創作の本を作る時に初めて二人で合同製作をしてみたらそれがとっても楽しくて。仲良くなり始めた時期に「ひぐらしのなく頃に」の「目明し編」に出会って、ものすごく感銘を受けて。しかも丁度二人居るし、自分一人だけだと出来ないけれど、たつきちさんと一緒なら出来るんじゃないかと思ってはじめてみました。

−−それを伺うと、作品のある一部に流れる「年頃の女の子が持つ微妙な危うさ、そして狂気」という表現に通づる部分があるのかもしれませんね。

ごぉ:やはり影響を受けているんだなぁと思います。

−−そうですね。あまり具体的にはかけませんが、例えば「アレをもいじゃったよ」とか(笑)

ごぉ:いや、具体的じゃないですか(笑) あのエンディングは実は一番好きなんですよ。一番あの子がイキイキしているシーンだと思いますね。

−−話を戻しますと、製作を決定した後の流れはどのような形で進めてこられましたか?

ごぉ:たつきちさんはちょっと遠くに住んでいるので、毎晩メッセンジャーを繋いで、バカ話をしつつ開発の話もするような形で進めてきました。古い友達ということもあって、離れていてもそんなに不安も無く作ってこれたのかなと思います。

−−例えばイラストや演出に関して、お二人がぶつかるような事はなかったですか?

ごぉ:絵それ自体に対しては無かったのですが、やはり枚数に関しては色々話しました。ここは絶対一枚入れたいんだよ。という所と、代わりにこっちを削るけれど良いのかというやりとりはありました。本当は昨年の夏コミで発表したいと考えていたんですが、二人とも結構忙しくてどうしても間に合わない。ならば絶対に冬コミで出そうと決めて、決めたからには間に合うような製作スケジュールを組んでいきました。それでもシナリオを書けば書くほどここに絵が欲しいんだという気持ちも出てきてしまうので、最初にたつきちさんに期間内での最大枚数を提示してもらってその中でやりくりしながらの製作になりました。

たつきち:シナリオに見合っただけの絵が必要というのが一番苦労したことでしょうか。「ひまわり」は同人作品としても結構ボリュームのあるほうだと思いますが、それに伴ってCGも枚数が必要なわけです。わがまま言って削ってもらったものもありますが、時間があれば描いてみたかったシーンも結構ありますね。あとは、制作期間中シナリオが徐々に出来上がって来てそれを読ませてもらうわけですが、めちゃくちゃ面白いわけです。光栄に思う反面、自分が絵を描いてもいいのかというのが結構プレッシャーになってたと思います。こういう苦労はたくさんありましたが結果的に、「なんとか形にして、楽しんでもらいたい」という気持ちがお互いにあったから乗り越えていけたんじゃ無いかと思います。

ごぉ:最初から、たつきちさんじゃないとだめだという思いがありました。最初は僕がキャラデザみたいな事もしていたのですが、これじゃとてもモチベーションが続かないなと。たつきちさんがいなければ決して日の目を見ることのない企画でしたね、「ひまわり」は。



−−製作メインのお名前に、ごぉさんとたつきちさんのお二人しか拝見できなかったんですが、ゲームのプログラム面はどのようにしてこられたのですか?

ごぉ:プログラムに関しては『吉里吉里』を使用させていただいています。プラグインも沢山提供されていてありがたいなと思いました。スクリプトは自分の担当だったんですが、きつい作業ですね。それでも他に任せられる人がいなかったのと、演出を自分でつけたかったというのがありました。そもそも背景などがフリー素材だったんで、そんなに自由気ままに使えないというのと、結構黒い背景のシーンが多かったと思うんで、そこの間をどうやってもたせればいいのかという辺りが悩ましかったです。組みつつプレイしつつ何度も手を入れながら作ってましたね。楽曲のセレクトも、ネットにあったフリー素材をひたすらに、もう本当にひたすらに聞きまくって決めたというのがありました。
すばらしい楽曲が多くて本当に良かったです。




−−個性的なヒロインキャラクター達ですが、XXX、アリエス、アクア、明香の四人に対して、4人のイメージはどのように生まれてきたのですか?

たつきち:まずは姉妹的存在であるアリエスとアクアですが、対となる存在ということを意識しました。アリエスは人懐っこくて天真爛漫、アクアは所謂ツンデレというイメージですね。ビジュアルもシンプルとゴテゴテ、白と黒という風にはっきりと違いを出しました。ワンピース/ゴスロリチックというのはごぉさんの要望でしたが、イメージ通りなんじゃないかと私も思います。

ごぉ:シルエットが似た形になってしまうので、アリエスはショートカット、アクアはツインテというのも最初から決まってましたね。

たつきち:次に明香ですが、年上のお嬢様っぽくを意識して描きました。ただキラキラした感じではなく、落ち着いた雰囲気を出したいなーという感じで。

ごぉ:作中では言及していないのですが、髪を染めているという設定もあります。元々の髪の色は・・・ご想像にお任せします(笑)

たつきち:最後にXXXは、恋する乙女をイメージして描きました。おしゃれをしようと頑張っている女の子という感じでしょうか。引っ込み思案なのを克服しようと派手目な服を頑張って着ているのです。あと、アリエスやアクアとは異なる雰囲気を出すように意識しました。作中の立ち位置的にもそうだと思いますし。
アリエス・アクア・明香の3人はシナリオの前半部分が出来た時期(体験版が出来た時期)にデザインは固まって立ち絵もほぼ出来ていました。シナリオの後半が出来上がるにつれてキャラクターの深い部分での内面や考え方が分かってきましたが、不思議と見た目とのミスマッチは個人的には無かったですね。




−−「ひまわり」という作品のシナリオ面について、どのようなきっかけで生まれたものになりますか?

ごぉ:一番初期の頃にはコアな部分の設定というのはあんまり無くって、ただ単純に空から女の子が落ちてくる。その女の子は記憶喪失で、どうにかしてその記憶を取り戻してゆくんだという話を書いてみたかったんです。空から落ちてきたということは、何処から落ちてきたのかという話を考えて、現実的な解を求めると、宇宙の宇宙ステーションがあるのではないかと。それでも何より本当に書きたかったのは、"ロリっ娘宇宙人同棲アドベンチャー"だったんですけれどね。

−−たつきちさんとしては、そのシナリオを最初に聞いた時にどのように感じられましたか?

たつきち:ロリっ娘ははずせないと聞いて、「さ、さすがごぉさん」と思いました(笑)。

ごぉ:ロリっ娘は最重要です。娘と書いて"こ"と読みます(笑)

たつきち:ロリっ娘に限らずごぉさんの好きなもの・書きたいことが溢れんばかりだという印象でしたね。彼とは昔から同人活動やらなにやらで知り合いなんですが、SF要素だとか割と好みがかぶっているせいかすんなりと受け入れることが出来ました。

−−いやでも「ロリっ娘」て、なぜこのタイトルをこの時代に!?

ごぉ:何かの影響を受けたのは間違いないですけれど、うーんなんていうんですか?「落ち(堕ち)ゲー」って言うんですかね、空から異性が落ちてきて主人公と同棲を始めるというタイプのストーリーをまずはやってみたいというか、そこだけは外せないというのがあって。あえてその名前をタイトルにつけたというのは、結局書いてみたらそこから外れていってしまったなという気持ちがあったので、ギミックとして付けさせてもらったというのがあります。

−−確かにトータルでシナリオを拝見すると、サブタイトルに付随する要素は若干薄くなるのかもしれませんね。

ごぉ:話を作る過程で必要な要素を入れてゆくと、アリエスに対になる形でのアクアの存在は必要になりましたし、そのバックグラウンドを決めてゆくうちにさらに要素的な広がりが大きくなってきたというのは事実ですね。

−−アクアを語るにつけ、宇宙、SFという要素が大きなファクターになってきていますし、空への憧れを作品全体として感じますが、そのあたりはいかがでしょう?

ごぉ:子供の頃からSF物が好きで、小学校の頃の夢は宇宙飛行士でしたね。その後紆余曲折があって宇宙飛行士にはなれなかったんですが、ならば自分が宇宙飛行士になる話でも書いてやろうという思いはずいぶん最初からありました。

たつきち:そんな宇宙飛行士、大吾の設定を聞いてまずぱっと思い浮かんだのは、マクロスプラスのイサムでした。陽気で無鉄砲で女たらしで英雄気質というイメージです。宇宙服の青というのも実はそこからだったりします。あの銀河よりもインパクトを出さなければいけないということで、ひげの量などに苦労しました。過去編が出来上がってからはじめてプレイしたときの大吾は本当に衝撃でした。良い意味で(笑)

ごぉ:ひげ!(笑) 確かにありました、ひげ論争(笑)

たつきち:明はごぉさんからも怖いと好評(?)で、もうひたすらに嫌な大人をイメージしてかきました。大学時代の明はもっと穏やかな顔をしていたんじゃないかなーと思います。
大吾は全く変わってなさそうですが(笑)。


ごぉ:実は、最初期のキャラデザでは、明がひげキャラだったんですよ。そのあと銀河や大吾が出てきて、ひげキャラはこいつらに譲ろうということになって、女性キャラについては陰毛の有無についても熱く語った記憶があります。って、さっきから毛の話しかしてないですね…。

−−微妙な質問になってしまいますが、大吾はもしかするとごぉさんの夢の具現化だったりするのですか?

ごぉ:そのつもりでした。あんなに変なキャラクターになるとは思いませんでしたが(笑)

一同:(笑)

ごぉ:過去編は当初大吾が主人公で、彼の視点で物語を書こうという構想だったんです。宇宙に憧れる一人の男が、宇宙に行って女の子と出会う。そんな単純な話にしようと思っていました。ただやはり製作を進めてゆくうちに、アクアを主人公にすることが必然になってきましたね。
悩まされたのは、大吾が主人公ならば、恋に至る過程はそこに女の子が居るという事を書いていけばいいんですが、ミステリアスな女の子という存在であるアクアなので、彼女を主人公にして恋を描くということが凄く難しいなと感じていました。
それでもアクアの視点でないと語りたいことが語り尽くせないのではないかな、という思いがあって、ああいった配役、話になりました。


−−そういったお話を聞くにつけ、個々のお話のピースが物語の最後に向かってはまってゆく過程の面白さも感じるのですが、ある程度フローのような設計の元で製作してこられたのですか?

ごぉ:うーん。「ひまわり」の世界観は意外と単純だと思うんですよね。地上に普通の世界があって宇宙に異世界がある。人々が暮らす日常と、宇宙人を確保してそれを研究する非日常がある。それを陽一の視点から見るとパズルのピーズがバラけているように見えてしまうんだと思います。逆に過去編を大吾が主人公で描いてしまうと、その時点で数々のピースがある程度一つに繋がってしまう。
何も知らずに生きているアクアだからこそ2048年の時間軸の中でパズルのピースに翻弄されているというのもあります。
最終的には色々なピースを持つキャラクター達が交流してゆくからこそ、物語が一つに繋がって見えてくるのだと思います。
それも「鬼隠し編/目明し編」の主人公達の心理構造に影響されているんだと思います。


−−そういえば目明し編といえば・・・
(30分ほど 詩音と魅音の良さについて激論トーク開催。)


ごぉ:そもそも主人公が記憶喪失であるという設定も、プレイヤーが投射するところの主人公には何も情報を与えないというためでもありました。

−−主人公が記憶喪失であるというシナリオの中で、やはりプレイヤーが一番怖いのが自分の知らない情報が出てくるというところだったと思いますが。

ごぉ:XXXや明香里の二人というのは記憶が少しずつ再現される過程の怖い存在だと思います。同時にXXXは陽一の、明香里は大吾と明にとっての初恋の人扱いだと思っています。初恋の人っていうのは何というか…。ラスボスなんですよね。
最初に好きになった人への想いはなかなか成就しないものだと思うんですが、時がたっても変わらずに心の中に居座り続ける。忘れたつもりになっても忘れられない初恋の怖さという部分を出したいなと思っていました。実際のキャラクター的な描写は控えながら、昔ただその場に存在したんだという事を強調したかったです。


−−例えばもし状況が許すならば、明香里の立ち絵は作ってみたいなと思われますか?

ごぉ:出来るだけ頭の中にどんなキャラかというイメージは作らないでいようと思っていました。ラスボスって、見えないからこそ怖いものじゃないですか。もし製作に余裕があってもどんなキャラかを描くこと、立ち絵を作ることは無かったと思います。

−−明香里って凄く何というか、ノスタルジックな女性ですね。それが宇宙に出た頃になって

ごぉ:壊れてきますね。

−−物語の流れの中で、大学という空間から西園寺グループ、宇宙へとゆくにつけてどんどん、何というか …

ごぉ:明は一つの目的にひたむきに進んでゆきますし、大吾はああいう性格ですから、気づいたら月へと向かって走っている。ただ明香里だけが大学時代の関係の延長として、三人でいたいからという理由で宇宙に行ってしまったんです。大学時代の三人の関係が楽しすぎたのでずっとこのままでいたかった。でも周りの二人は違う目標を見つけて歩き出してしまったがゆえに三人のすれ違いが始まってしまった。明と大吾の二人の男達の気持ちが重くなっていって、最終的には本当に昔に(大学時代の三人に)戻りたいなぁという気持ちしかなかったんだと思います。

−−男として伺うには怖い部分ですが、明香里は、明を思うように大吾も愛していたのですか?

ごぉ:明香里にとって愛とは何なのでしょうね。でも誰を思っていたかというならば、二人を同じように思っていたという事になると思います。ただ、もっと明香里が普通の人間というか、しっかりとした存在なら、この「ひまわり」というお話は始まってすらいないのではないかなと思います。



−−作品の中に、生物学、天文学に関する知識や考察がちりばめられていますが、この辺りのバックボーンはどのような物がありましたか?

ごぉ:お恥ずかしい話ですが、子供の頃の聞きかじった知識や、宇宙関係の知識なんかはネットや本で裏づけを取りながら作った部分はありました。
例えば、おひつじ座が3月21日から始まるというような細かい知識は調べて書いた物の一つですね。リアリティというか、説得力を意識した部分はありますが、僕自身小ネタが好きなので、宇宙に関してこんなTipsがあるよ。というものは出来るだけ散りばめて見ました。


−−Tipsへのアプローチも「ひまわり」では面白い扱いでしたね。

ごぉ:ひぐらしの捜査ファイル(2005年一迅社刊)で、雑誌のスクラップ帳が破かれたり汚れていたりして中には手記みたいなものが載っていて、そのリアリティたるやものすごく印象深くって、Tipsというものを作ってみたかったというのが大きいです。

−−そして、Tipsを語るとやはりTips 36に行き着くのですが、単刀直入に伺うと、あれがTrue Endなんでしょうか?

ごぉ:あれは単純にアリエスを救いたかったというのが大きいです。作品的な位置づけとしてはアクア編をアリエスでなぞっているだけの物になるのではないかという悩みはありましたから、そういう意味でTrue End扱いは出来ないなとも思ってTipsに入れました。

−−ではあえて伺うならば、この作品にTrue Endを付けるならばどういった物語になるでしょうか?

ごぉ:個人的には明香編がその位置だと思います。ルートが固定でシナリオが順番で解除できる仕様になっているのも、一応前のキャラクターを踏まえた上で次の物語へと引き継いでいける形にしたかったからというのがあります。明香編は、明香の物語というよりも、そこまで積み上げてきた「ひまわり」の総括的なものだと思っています。



−−それではいよいよ登場人物に迫ってみたいと思います。やはり最初に伺うべきは空から落ちてきた少女"アリエス"でしょうか。

ごぉ:登場人物は全員18歳以上ですが(笑)、外見上は14歳前後の少女ということで、とにかく子供として書こうというのはありました。彼女も一応、恋をしている女の子ではありますけれど、少女と呼ぶほどには客観的な恋愛のできる年齢ではない、かなと。精神年齢的には10歳か、それ以下でもいいかもしれない。

−−それはやはり宇宙ステーションでの生活というものが影響しているのですか?

ごぉ:それが一番大きな要素だと思います。彼女にはほんの少しの陽一との接点の他に、何も影響を与えてくれるものが無かった。そんな中で育ってしまったがゆえにああいった性格へと形成されていったのかなと思います。ある意味強くも見えるんですけれど、その分他のものを切り捨ててしまっているので、非常に脆いのかもしれない。
そのあたりの感情的な不安定さは過去編に散りばめてあるので、よく読んでいただければ、現代編におけるアリエスという少女を理解してもらえるのかなと思います。


−−そう考えると余りにも切ないですね。私もTips 36の存在を知ったのはかなーり後になってやり直した時だったので、それで補完された印象でしたが。

ごぉ:めんどくさい構成ですみません(笑)あそこまでたどり着ける人は居ないんじゃないかと思っていた事もあったんですが、結構感想を書いてくださる方もいて、嬉しかったです。最初に冬コミで発表したバージョンには、あのシナリオは入っていないんですよ。今書店で扱ってもらっているバージョンには収録していますし、パッチでの配布もしているのですが、そうやって追加補完したTipsでもありました。ただ大事な所だったので最終的に描けてよかったと思っています。



−−そしてヒロイン達の中でもひときわ異彩を放つ、患者続出の少女"アクア"についてはいかがでしょうか?

ごぉ:他のヒロイン達に比べるとはっきりと"成長してゆくヒロイン"という位置づけにあると思います。他のヒロイン達は様々な要素が絡んできてその可能性を阻んでしまっていますから。その成長の過程が陽一とかぶっている部分が大きいために自然二人の距離が縮まっていったのではないかなと思います。このシナリオを書いている時にずっと考えていたことは"子供はどうやって大人になっていくのかな?"という事でした。何かをきっかけに大人になるのか、段階的に徐々に大人になっていくのか、そんな悩みの過程の中にアクアという存在はいるのかなと思います。
アクアはとにかくアリエスと仲良しなんです。後半になればなるほど姉妹二人でイチャイチャしていたりするんですが、作中での表現が足りなかった部分かもしれませんね。過去編あたりでもうちょっと補完できればよかったんですが、過去編は後半になるにつけアクアの存在が不安定になってゆく部分があるので難しい所でした。作中では描かれなかった2048-2050の2年という間での宇宙ステーションの生活は、心に傷を持つ姉妹二人だけの生活だったということもあって、寄り添いあっていた……。悪くいうならば傷を舐めあうような二人の時間だったんだと思います。


−−そんな悲しい過去の女の子だからでしょうか、大きなお兄さん達の嫁発言をそこかしこで拝見しますが。

ごぉ:ありがたいですね。姉であり、非情なところもあり、その状況によってくるくると表情の変わるキャラクターであり、いわゆるツンデレで結構テンプレなキャラクターなんですが。ツインテ、ツリ目、しかも敵キャラとして登場。うーん三拍子そろって完璧ですよね(笑)



−−物語は2050年という現在から2048年へと時代の巻き戻りが発生しますが、ああいった表現を考えられたのはどのような意図でしたか?

ごぉ:個人サークル活動で二次創作を作っていた頃一番好きだったのが鍵系で、アニメ化もされた『AIR』中にあった物語の表現の、現在から過去へ、過去から現在へという物語の繋ぎ方が凄く好きだったんです。単純に自分もそういう構造の話は書いてみたかった、という思いもありました。基本的に地上の話と宇宙の話は全く別のものにしたかったので、宇宙空間という世界での選択肢のなさと、過去の物語であるが故の現在への影響力の無さ、回避できない惨劇、言ってしまえば過去の話だから選択肢で未来は変えられない。という気持ちをこめた結果としてああいった形になりました。一個だけ選択肢を作ったのですが、あれはあそこでルートが分岐したという意味ではなく、事件の後の2年の間にアクアが一人で鬱々と思い描いていた一つの可能性、という位置づけです。



−−メインヒロインの一人として描きつつ、中々語る事が難しいXXXですが、彼女はどういう存在だったのでしょうか?

ごぉ:孤独なキャラクターとして描きたかったという事が一番大きいですね。結構人当たりの良い感じで、明るいころころと笑う女の子として写る部分が多かったと思うんですが、彼女も何だかんだ言って宇宙で過ごしてきた人間なので、日向家に最初に引き取られた当初も無口な女の子だったんです。徐々に陽一に心を開いてきて、プレイヤーはそういった側面だけを見ていくのですが、例えばTipsにあるとおり、暗い面を学校生活では隠しきれない所があったんだろうと思います。そういう人見知りな所はあるんですが、アリエスやアクアほど大きな傷を負っているわけではないので、基本的には普通の女の子、ただちょっとだけ人が苦手な子なんだと思いますね。

−−ギャルゲとしての手法にこだわりを感じさせますが、逆にエロゲとして(この辺りの語彙的な区分がどこにあるかというのが難しいですが)余りこだわっておられないような感がありますけれども。

ごぉ:必然的でないシーンは作りたくない。かといって、そういうシーンを全面的に削ってしまって成立する話にもしたくはない。そんな気持ちで作っている部分はあります。
なので18禁になることは必然というか、ある意味目標でしたね。


−−そして最後に、しっかり者の同級生、明香について伺わせていただけますか?

ごぉ:一人ぐらいは等身大のキャラクターを出したい、そして少なくとも陽一よりは精神年齢が大人なキャラクターという位置づけで作られたキャラクターですね。とはいえ「ひまわり」の登場キャラクターたちはみんな子供なんですが。

−−実際■天には僕自身も休みの日にフラリと寄ったりするので、あのネーミングには笑いましたが。

ごぉ:えっ!?■天って本当にあるんですか?

−−はい、東京の池袋の…。アレ?まさか?

ごぉ:ああっそっちか、びっくりしました(笑)

−−いや、私始めてお会いする方のインタビューでどんだけエロカミングアウトしてるんですか(笑)

ごぉ:いやいや、本当にびっくりしました(笑) いやでもプラネタリウムいいですよね。■天には残念ながらまだ行ったことがないですけど、一度行ってみたいですね。実際東京は星が見えないなぁと感じる事も多くて。「ひまわり」の執筆開始の少し前に青森の山奥の旅館に行ったんですが、そこで見た星があまりにも凄すぎて、それを見たからこそ子供の頃に憧れた宇宙というものにもう一度興味が出て、「ひまわり」を作ろうと思ったのかもしれません。

−−視点をヒロイン以外にも移すと、主人公より前に出てくる快活なキャラクター銀河がいますが、彼はどのような意図から生まれたのですか?

ごぉ:完璧超人として描きたかったというのがありました。主人公がナヨナヨした優柔不断なタイプなので、その主人公を引っ張って情熱を与えてくれるような友人が欲しいなと思っていました。明と大吾はほぼ対等だったので、彼らの関係と全く同じではないですが、主人公と銀河がお互いを高めあえる存在として存在すると面白いなと思いました。でもただの完璧超人ではなくて、その心の目指すところに大吾という父親の存在があるからだと思います。

−−そう考えると紅葉という母親の存在も気になりますね。

ごぉ:月での一件以降、なぜ大吾がコロッと明里から紅葉に乗り換えたのかというと、単純にフられたからというのもありますが、他にも色々と理由がありそうですね。実は二人の間には因縁があっただとか、クローン技術でごにょごにょだとか。少なくともただの一般人ではないのでしょうね。



−−明香と陽一と銀河の関係は、もしかすると父親世代を辿っているのかなと思うところがありますが。

ごぉ:面白いお話かもしれません。もし銀河が明香への恋心を持っていたのならば、まさに大吾の二の舞になりかねないなとも思います。実は最初のプロットの中では、陽一と銀河が明香を取り合うという三角関係があったんです。当時は親世代という要素も考えてなかったですし、単純な三角関係の物語としてはいいかなと思ったのですが、プロットを進めていくうちにそういった部分は親世代で描いてしまおう。子供達は親とは違う生き方を選択するキャラクターにしよう、と変わっていきました。あの三人はある意味親の意志を次いでいる部分もありますね。

−−宗一郎の意志という意味ではいかがでしょうね。

ごぉ:宗一郎は明に影響を与えた先生という存在です。同時に大吾にとっても飲み仲間だったわけですね。結果として宗一郎の意志は、明と大吾がそれぞれ引き継いだのかもしれません。宇宙に対する情熱や、そもそも人類を救うという言葉も、元は宗一郎の意志なんです。宗一郎と大吾が同時に出現するシーンがなかったので、大学時代のその辺りの二人を書いたら凄く面白いんじゃないかとたつきちさんと話していたんですが、結局シナリオ上の都合もあった書けませんでしたね。実は、そういったくやしさからおまけモードでは二人の立ち絵が同時に表示されるんです(笑)。



−−主人公の陽一という存在はいかがでしょうか?

ごぉ:陽一は一番語るのが難しいですね。プレイヤーに寄り添わせなくてはいけないという所を考えていて、まずは記憶喪失という設定がありました。だけど完全にプレイヤーの分身ではなく、プレイヤーが知らない記憶があるという気持ち悪さと、それが少しずつ明らかになってゆくという部分が重要な要素ではないでしょうか。彼は高校2年生、大人になるまで余り時間が無い状況に居る。本当は自分の将来を考えたり、受験勉強に備えたりしなくちゃいけない時期だと思うんですが、そこからの逃避行動が彼にとってはロケットを作るということなんです。なので、いつまでもロケットを作っては居られないという状況に対してどのように向き合わせるのかという部分に悩みました。

−−ひとりひとりに印象的なシーンがありましたが、描かれたCG、ビジュアルシーンの中で、どのシーンが一番印象に残っておられますか?

たつきち:陽一とアリエスの屋根上のCGですね。屋根上のシーンはたびたび出てくると思いますが、やはり二人にとって特別な場所なんだと思います。

ごぉ:あのシーンは、とあるエンディングの1シーンと対になってますね。そう思うと、無邪気に空を見上げるアリエスが愛おしくてたまらない。

−−同時にこのキャラクターは描いてないけれど描いてみたいな?というシーンはありますか?

たつきち:大学時代の明香里、大吾、明の3人をかいてみたいなーと思いますね。あと、キャラクターではないですが、一つはアクアの宇宙服姿でしょうか。当初は描く方向だったんですが途中で無しになったので。あとは、XXXのイベントCGです。TIPSで補完はされていますが、個人的には陽一との日常のシーンをもっと見てみたいですし。描いてもみたいです。

ごぉ:演出上の都合で描けなかったシーンはいくつもありますね。ウエディングドレスのアクアとか。こっそり描いてくれませんかね?(笑)

−−なるほど、僕にもください(笑)



−−再度の質問になってしまうのかもしれませんが、改めてテーマを伺ってよろしいですか?

ごぉ:先ほども話させていただきましたが、"子供はどうやって大人になっていくのか"、もっとつきつめると"子供は本当に成長して大人になるのか"ということです。自分は小さな頃は、いつか大人になって立派な人間になるのだろうと漠然と思っていたんですが、だんだんそうじゃなんだなぁと気づいてきて、もしかするとこの世界には大人になりきれなかった人が溢れているんじゃないかなと思って。例えば明香里のように、時が止まっていることに疑問を抱かずに子供で居ることを純粋に望む存在が居て、明も大吾ももしかするとそうだったのかも知れないけれど、それでも男二人は少しずつ大人になっていって、すれ違いが生じてきてしまった。そういう意味で「ひまわり」というお話は"子供の物語"だと。それはナリがどうであれ立場がどうであれ全てがどこか子供らしさを残した登場人物が、どのように大人になるための最初の一歩を踏み出すのか。という事だとおもいます。



−−最後に、次回作はどのような作品を考えておられますか?

ごぉ:今はやはり「ひまわり」の続編希望の声は多いですね。自分としても続編を見てみたいとは思いますが、「ひまわり」自体がそれ以上話を付け加えると蛇足になるとも感じていますので。もしも続編を描くならばキャラクターは総取替えで世界観を引き継ぎつつの物になるのではないかなという妄想として、4月1日のエイプリルフール動画「COSMOS」を公開したんですよ。
エイプリルフールのブログネタとしての位置づけでもあったので、現実として続編を作るかどうかはまだ考えていないです。


−−あの会話はてっきり続編への前フリだと思っていたんですが。

ごぉ:そういう捉え方をしていただいている方も多いようなんですが、実際にはあのシーンは「ひまわり」という作品の総まとめとしてテーマをもう一回リフレインしている、という位置づけにあります。続編への引きとして書いたというわけではなく、むしろこれを書いてしまうと続編は出せないなという気持ちがありました。反面、もうちょっと「ひまわり」の世界をいじりたい、もっとあの世界に浸っていたいなとも思っています。世界観自体はSFチックなんだけれども、そんなに日常離れしていないという所がお気に入りなので。

−−ここはプレイヤー的にも食い下がるところかと思うのですが、例えばファンディスクという選択肢はないでしょうか?

ごぉ:時間さえあればやりたいです。むしろ自分で遊んでみたいかも・・・誰か二次創作でやってくれないですかね?(笑)

−−近々での制作はいかがですか?

ごぉ:今は、雪双葉さんが主催のフリーゲーム「季節のおくりもの(仮)」という短編集企画に参加しています。各々のシナリオは短いんですが、たくさんの作家さんが参加されているので、かなり読み応えのある物になるのではないかと。

−−最後に虎通読者の皆様と、今後「ひまわり」をプレイされるユーザー様に一言いただけますか?

ごぉ:アクアは俺の娘です。大事にしてやってくださいね。

たつきち:「ひまわり」を、よろしくお願いします!

−−ありがとうございました。


from TORATSU 2008.AUG HEADLINE SPECIAL



虎通135号(pp.06-11)より引用