周泰も思わず見たかった写真集
どんなものなんでしょうね?


長安ブックス店頭
目立つ平台に更に目立たせるために手書きのPOPが踊る
『人気急上昇!!』
『1st写真集入荷!!』
『初版限定握手会応募券付き』
『売り切れ必至、急げ!!』
山と詰まれた写真集を若者が中心で買っていく
「おい、2冊も買ってどうするんだよ」
「1冊は保存用に決まってるだろ」
学生らしきグループが買うかと思えば、紙袋を持ってナップサックからポスターのはみ出している若者も買う
【ダブルS CONCERTO】
表紙にはそう書かれ、二人の女性が写っている
一人はロココ調のフリフリしたレース付いたの白のフレアスカートに、こちらもレースに花の付いた大きな帽子をかぶって籐の椅子に座ってかすかに微笑んでいる姫
その横にオールバックで凛々しく鋭い目、黒のスーツでビシッと決めた甄が姫の肩に手を置いて立っている
空いた手には真っ赤なバラの花束、100本ぐらい束ねているだろうか、を持っている
「あ、甄様。素敵♪」
そう言って買っていく女学生
ぽっと出のダンスグループの写真集にしてはいい売れ行きのようだ
「ギリッ!」
そんな写真集を見て歯軋りをする女性がいた
黒いドレス風の衣装をまとってファッション誌のコーナーにいた
だが、その目は手に持ったファッション詩ではなくダブルSの写真集に注がれていた
「小娘の癖に・・・」
そんな声がで聞こえる
妖しい妖しいプロローグ

とある事務所
芸能人を多数抱える中堅どころ
「社長!」
一人の女性がすごい剣幕で扉を押し開けた
「私の仕事はどうなっているんですか!?」
豪奢な机の向こうで書類に目を通していた社長が眉を引きつらせながら顔を上げた
「君の仕事のことは君のマネージャーに確認したまえ」
不機嫌にそう言うが、女性の剣幕は納まらない
後ろで引き止めるマネージャーの制止を無視して机の前に立つ
そしてあろうことか、その机にドンと大きな音を立てて手を突く
「この私を誰だと思っているのです。映画界に燦然と輝く金字塔『燃える黒バラ』の主演女優、郭ですのよ。何故半年も仕事が来ないんですか!?」
「人気がないからだ」
社長は面倒にそう答えた
その瞬間、郭の時間が止まった
「おい」
その硬直した郭を横目でマネージャーに声をかける
「さっさと連れて行け。そして目を覚ましたら伝えろ・・・レッスンをサボるな!」
「は、はい」
硬直した郭を背負ってマネージャーが外へ出て行く
「まったく、才能はあるくせに有頂天に・・・」
社長の呟きは閉められた扉に遮られた
マネージャーは痛む胃に耐えながら郭を背負っていった
「どう言う事なのよ!!」
事務所内の専用の部屋に戻った郭はマネージャーに詰め寄る
「この私の人気がないですって!?」
「い、いや、、、全くないわけでは・・・」
「そうよ、この私は観客動員記録を作ったあの不滅の金字塔『燃える黒バラ』の主演女優なのよ。思い出して御覧なさい、あの時の狂乱を。どれほどの番組プロデューサーが、どれほどの雑誌がインタビューに来たかを? そんな私の人気がないですって?」
マネージャーは首を絞められ真っ青な顔です
「ぐ、ぐる、、、じ、、、」
「どうなの、お答えなさい!」
「人気どころか、記憶すら薄れてきそうね」
答えられないマネージャーの背後から声がかかる
「1年も前の映画のヒットだけで生きていけるわけはないでしょ」
哀れみと嘲笑を含んだ嘲りの言葉
郭がマネージャーを投げ捨てて声の主を睨みつける
「怖いわね。そのにらみであの映画は大ヒットだったけど、もうそれだけじゃダメなのはわかっているんでしょ・・・落ち目の女優さん」
郭が般若のような顔で近づいてくる
「あんた、春華とか言ったわね」
「あら、大女優様に覚えていただけたとは光栄ね」
ふふふと笑う
「あんたぐらいの小娘、ひねり潰すぐらいできるのよ」
確かに落ち目とは言え、当たりのある女優といまだ影のままの春華
郭の言葉に嘘はない
「でも、その勢いもいつまで持つのかしら」
「何ですって!」
背後で息ができるようにはなったが、それこそ死を覚悟したマネージャーががたがた震えている
「ほらほら、扉も閉めないで話すから注目の的よ」
確かに見ない振りをしているが、事務所にいる人間の全ての耳がこちらを向いている
「お互い生き残る方法を考えませんか」
そう言って春華が一冊の写真集を差し出す
「!!」
その写真集の表紙を食い入るように見つめる郭
「・・・お姉さま」
唇が僅かに動いて漏れる
「あなた、何を知っているの」
先ほどと打って変わって小さな声
だが、その言葉にこもった冷気は比較にならないほど冷たい
「そのお話こそ、扉を閉めてからね」
春華は背中に流れる冷や汗と、心の動揺を押し隠して平静にそう言う
そして地獄の釜のふたを閉めるかの勇気を振り絞って扉を閉めた
春華の一世一代の大博打の始まりだった
それから数日後、スポーツ誌の朝刊に大きな見出しが載った
『黒バラの女王、女優業から歌手へ転身!!』(スポーツ長安)
『ビッグプロジェクト発動!!  か?』(魏スポ)
『黒バラに従う茨の姫と新ユニット誕生』(夕刊しょく)
『昼の連ドラいきなり主演と主題歌』(呉入りスポーツ)
ちょうど大きな事件もなく、野球もキャンプ前と言うことも重なり全誌が同じ記事を掲載した
そしてお昼のワイドショーもいいネタとばかりに取り上げる
「ええ、女優だけではなく歌手としても成功するつもりですわ」
「相方の春華さんはどういう感じですか?」
「とっても気が合うんですよ。なんだか昔からの親友みたい」
「そんな、郭様に教えてもらってばかりの毎日です」
「ほら、お友達なんだからそんな呼び方しないって約束したでしょ」
「あ、ごめんなさい。うふふふふ」
「ほほほほほ」
そんな共同会見が流されていたテレビの画面が突然消える
「え、どうしたの甄ちゃん」
室内のせいだろうか、少し顔の青ざめた甄がリモコンのスイッチを押していた
「え、あ、そのごめんなさいね」
慌ててリモコンのスイッチを押してテレビをつける
画面ではキャスターが天王寺ビルで爆発があったと言う緊急ニュースを流していた
「ちょっと出かけてくるね」
甄はそう言うとコートを羽織って外へ出て行った
「あ、甄ちゃん・・・」
コタツに入ってオレンジ色の半纏を来た姫が、みかんを口に運びながら振り向いた時にはもうそこに甄の姿はなかった

少し郊外の公園
大きな公園の片隅に一本の柿の木があった
その枝には看板が吊るされていた「渋柿です。それでも良かったらお持ち下さい。公園整備課」
そんな木の前に甄がいた
「・・・」
秋の冷たい風が甄の呟きをかき消す
木にはカラスやすずめが食べきれないほどの柿がなっていた
にぎやかに、たくさん
甄が公園を外に出たところに、黒塗りの車が止まった
スモークのガラスが少し開いて「乗りませんか」
そう言葉が投げかけられた
甄は歩を進めて後部座席に滑り込む
車は静かに発進した
運転席と後部座席をガラスで仕切られた車内で二人の美女が座る
夕暮れの車内は薄暗く、隣に座る人の顔もはっきりとは見えない
「久しぶりね、お姉さま」
「そうね・・・」
挨拶の後、数瞬の沈黙が降りる
「お姉さまならあそこに行くと思ったわ」
「あなたも来たものね」
会話は続かない
沈黙の方が長く、まるでしゃべることを禁じられたかのようだった
車は幹線道路を宛てもなく彷徨っている
二人の会話が終わることを妨げるようにずっと
「デビュー、、、するのね。おめでとう」
「ええ、お姉さまを追い抜くわよ」
「そう、、、」
二人の間に一冊の写真集が置かれる
「見たわ、、、素敵ね」
「そうかしら、、、」
その言葉が沈黙の帳を押し開いた
「お姉さまはいつも沿う! なんでもそつなくこなして、みんなの中心にいたわ。あの孤児院でも輪の中心はお姉さま。私はいつもその輪を見ているだけだった。いつも輝いていたお姉さまを追い抜こうとがんばって、映画にも出たわ」
「すごいヒットだったね。おめでとうってずっと言いた・・・」
「やめて!」
「郭・・・」
「お姉さまも知ってるでしょ、もう人気なんてないのよ。これが最後のチャンスなの。もう、最後のチャンスなの・・・だから、お姉さまにお別れを言いに来たの」
「・・・」
「あの日、孤児院に連れて行かれて寂しくて泣いてた私を慰めてくれて、お姉ちゃんになってあげるって言ってくれた日のことは忘れないわ。でも、私もこの世界で生きて生きたいの、お姉さまでも容赦はしないわ。私の、最後の、、、チャンスなの、、、」
「・・・そう」
幹線沿いの明かりが車内に差し込み、二人の涙がかすかに光る
「私も、負けないわよ。大切な仲間と一緒なんですから」
「ええ、解ってます」
涙に震える声、その言葉を最後にすすり泣きが漏れる
車が甄の住むマンションの前に静かに止まる
甄が車を降りる前に郭の手に握らせる
「柿の木は昔のままあったわよ。昔みたいにたくさん仲良く実をつけていたわ」
車は来た時と同じように静かに走り去った
「苦いわ・・・」
車内で呟きが闇に吸い込まれた

〜おしま・・・つづ・・・どうしよう?〜

リョーチョー殿が写真集を出したからそれを見て燃える郭と春華のユニットで写真集を対抗して出すって言うプロットのはずが、なんだこの展開は?!
終わらせた方がいいのか、続けなきゃいけないのか悩むような終わらせ方をしてしまった
結局写真集も出せなかったし、なんかよく解らない終わり方ですが、贈呈しますw
次のICBの時には郭と春華の写真集も出してあげて下さいね
黒薔薇の女王と茨の姫の新ユニット、クラウンソーン〔crown thorns〕をよろしくw