良くある理由で俺はその旅館にいた
この前のオフ会で旅行に行くことに決めたのに、なぜか旅館に来たのは俺だけだった
携帯でメールを送る・・・送る・・・送りまくって返事が来た
「え、あれマジだったのwwwごめんパスwww リョーチョー」
「今大戦中、むりぽ むつー」
「厳ちゃんいないんでしょ、行くわけないじゃない 銀河」
ちくしょー!
雪降る中、旅館の玄関先で俺が吠えた、、、悲しい
帰ってやろうかとも思ったが、ここまで来て帰るに帰れない
俺はあきらめて旅館に入った
「ようこそ、宿帳へ記入お願いします」
入り口で品の良さそうな女将だろうか、年季の入った宿帳を手渡してきた
さらっと名前を書く
「獅子天様ですね、ようこそおいでなさいました」

ダブルS特別編〜ごめん、やりすぎた〜

仲居に案内されて俺は2階の一室に案内された
「晩御飯は部屋食になります。6時ごろにお持ちします。それと・・・」
若い仲居が暗記している説明を並べ立てていく
結構可愛い顔しているな
説明も特に聞かずにその子の顔を眺めていた
「・・・です。露天風呂は24時間は入れますけど、雪で迷うと危険なので吹雪のときはご遠慮くださいね」
そう言って、その仲居は部屋から出て行った
6畳の小さな部屋に俺の持ってきたカバンがひとつ
目の前にはさっきの仲居が淹れていったお茶が湯気を立てている
振り子式の柱時計の音だけが静寂を嫌うかのように音を発し続けている
時計がボーンボーンボーンと3つ鳴った
「伏兵か!?」
・・・一人でこんなことして悲しいぞ俺
カバンの中から武将カードを取り出して並べてみる
「しまった、オフラインのルールブック忘れた・・・」
それ以前に一人でするゲームじゃないし
俺はため息を付くと畳の上に横になった
時計の針が少しずつ動いて、、、俺は飛び起きた
「いいさ、いいさ。一人だって楽しいもん。そうだ、温泉があるって言ってたな、露天風呂だし行ってみるか。後であいつらにメール送ってやる。そうだブログに載せてやろうかな、うらやましがるぞ・・・・・・ふぅ、一人でしゃべってたら馬鹿みたいだ・・・行こう」

そりゃ期待するよな
露天風呂、ひょっとして混浴とか
だけどな、そりゃ甘い考えってもんだよな
入り口から大きく分かれ、中も竹の柵でしっかり分けられていた
「まあ、気持ちいいし、静かだし。雪を眺めてただボーっとつかるのも贅沢だな」
俺は大きな露天に一人で使って舞い散る雪を眺めていた
そろそろ部屋に戻ろう
飯の時間だしな

部屋に戻ったらさっきのかわいい仲居さんじゃなくて女将が食事の準備をしていた
「ああ、お湯はいかがですか? 食事の準備が出来ましたので用意させていただきました。御用があればお声掛け下さい。30分もしたらお下げさせていただきますので、ごゆっくりどうぞ」
そう一気にまくし立てて出て行った・・・
何なんだ?
まあ、いいか
腹も減ってたし、鍋に天麩羅に刺身が食欲をくすぐる
箸を取って、、、おっと忘れてた
携帯で写真撮っててやる
後でブログで自慢してやるぜ
ん、メールが入ってるな
「むつーさんがパチンコ大当たりしたので中華街の永華楼でおごってもらってますwwwむちゃうまですよwww リョーチョー」
写メまで付いて、うまそうな中華が写ってるよ、、、なんだよ、、、なんだよ、、、
俺だって、鍋と天麩羅と刺身だぞ
一人で食べ放題だぞ、、、、
独りで、、、独りで、、、寂しい
ブログに載せるのは、、、やめておこう
刺客送ってやる
食べ終わった頃にさっきの女将がやってきてお膳を下げにきた
それなのに、俺の顔を見るなり突然怒ったように言い出した
「あんた! 何かつらいことがあったのか知らないけど、死んじゃダメだよ!!」
ぶはっ!
この女将は突然何を言い出すんだよ
誰が死ぬかよ
「女なんてね、星の数ほどいるんだよ。一人や二人に振られたからって何を気にする必要があるかね」
いや、そんな話すら聞きたくも無いぐらい迷惑です
けど女将はうんざりしている俺を見て更に勘違いしたように語気を強める
「いいかい、若いうちはそりゃいろんなことがあるよ、、、だからね、、、そんな時は、、、なんだよ」
延々30分をかけてお説教された
しかも何を勘違いしたのか、自殺は止めろと散々言い続けられた
俺が死んだら原因は間違いなくあんただよ!
何でこんな旅館に泊まってるんだろ、俺

眠れない
さっき柱時計が11回鳴ったな
「ふう、月が綺麗だ」
窓の障子越しに月の明かりが入ってくる
積もった雪に反射して、夜中だと言うのに明かり無しで歩けそうなぐらい明るい
月見で露天も悪くないか
俺はタオルを持つと今日4回目の露天に向かった
露天にはこの時間だと言うのに先客がいた
湯気でよく見えないけど、どうやら6人ぐらいいるようだ
「おい楽進、背中流してくれよ」
「いいですよ坊っちゃん。お、牛金すまんな俺の背中を流してもらって」
「ぶも」
・・・ぶも?
牛金でぶも
え、まさか、、、ダブルSのダンサーズ!?
良く目を凝らしてみると、本物だ!
体を洗ったり、湯船で月見酒としゃれ込んでいる人も居る
お、楽進の筋肉スゲー
な、なに!
牛金のヘルメットとっても髪型が角になってるぞ!!
大発見だ、今度教えてやろう
俺はそんな様子をちらちら見ながら体を洗って湯船に浸かる
「ふ、いい月だ」
劉曄と陳宮が徳利を浮かべて杯を傾けている
なんだか劉曄ってこういうのが絵になるな
「ざっぱーん!」
突然曹昂が飛び込んでお湯をもろに被った
「ぶはっ!」
「・・・」
劉曄と陳宮は無言で曹昂を睨みつけている、すげぇ迫力だ
「ぼっちゃん、だめですよ。他のお客さんもいるんですから。どうもすいません」
楽進が俺に謝ってるよ、すげー
「まったく、小物が騒ぎおって」
少し離れたところで湯に浸かっていた賈クがわざわざ聞こえるように大声で呟く
「なんだと、俺のどこが小物だ。見ろこの立派な一物を!」
湯船から立ち上がった曹昂が腰に手を当てて仁王立ちになる
・・・そんなに言うほどか?
俺のほうがマシじゃないか、ぷっ
その言葉に劉曄がゆっくりと立ち上がる
「ふ」
お、でか!
確かにすごいぞ
「お、お前に言ったんじゃないんだよ。賈ク、お前だよ。見せてみろよ、もやしみたいなのか」
曹昂が近づいて賈クの腰に巻かれたタオルを剥ぎ取る
「・・・」
その瞬間曹昂の動きが止まった
「愚か者が」
俺のところからは曹昂の尻しか見えないが、どうやら相当のもののようだ
曹昂が何も言わずに戻ってくる
「お、お前も笑ってるんじゃないぞ!」
良くわからないが俺に文句言われてもな
そういうことなら、俺も立たねばなるまい
「くそー、みんな大っ嫌いだー」
勝ったな
「あんたもやるな、どうだ一杯」
陳宮が杯を持ってきてくれた
うお、これは断れないぞ
「いただきます。かぁー、うまい」
背後で聞こえる曹昂の負け犬っぷりがいいBGMだ
しばらく賈クと陳宮と劉曄と酒を酌み交わす
「月を愛で、酒を酌み交わす。いい知恵が湧きそうだ」
「なんだ、お前は杜甫のような性格かと思ったが李白のようだな」
「ふ、李白は1杯の酒で100の詩を書く、か」
難しい話をしているようだ
ん、陳宮は何をしているんだ
あそこはお湯が出るところだろ、、、
「ふはははは、流されちまえ!」
突然そう言うとお湯の吹き出し口の蛇口を全開にする
勢い良く開かれた蛇口から温泉が大量に噴き出す
「うわっ」
「がぼがぼがぼ」
牛金と楽進が慌てて蛇口を閉めてようやく急流が止まった
陳宮はそのとき殴られて気絶したまま湯船に浮かんでいる
な、なんて酔い方をするんだ
「あんたたち、何やってんのよ!静かにしなさい!!」
お湯でおぼれかけた俺たちの上に隣からお怒りの声が降ってきた
・・・隣は、女湯だよな
そういえばここにダンサーズがいると言うことは、隣には・・・
俺は竹の柵を恨めしそうに見つめる
「あの柵は一枚ではないぞ」
「ああ、愚昧な戦略では越えることもかなわんだろう」
「お二方!紳士としての対応をせぬ場合はお分かりになっておりますな」
「全く楽進は固くていかんな、いっしょに覗けば良かろうに」
「ぼっちゃん!!」
みんな考えることは同じと言うことか
しかし、あの柵の向こうは桃源郷
見てみたい魅惑の世界
「おい、若いの。乗るか?」
曹昂が俺の肩に手を置いてきた
俺は何も言わずに親指を突きたてた
そこへ劉曄と賈ク、そして牛金の親指も突き出される
「お待ち下さい、皆さん。そんな破廉恥なことをしては・・・」
「ふ、お主はいつも見ているから見なくても良いと言うわけか」
「見せたくないんだろ、あいつの裸を他の男に」
「い、いや、私はそんなことは・・・」
「なら、一緒に覗くよな」
結局気絶して湯船に浮かんでいる陳宮以外の6人が竹の柵の前に奮い立つ
「何か考えあるんだろうな」
嫌々だったはずなのに楽進が指揮を取ってやる気満々に見える
「任せろ」
劉曄がふっと笑う
「策は3つだ。まずは上策、この囲みの向こうまで雪中行軍を行い背後を衝く」
「なるほど、確かに見つからない良い策だが、そこまでの時間は?」
「およそ1時間」
「・・・却下だ」
誰が1時間もかけて背後まで行くんだよ
いや待て・・・なんで背後まで一時間で行けるのを知っているんだ?
「では中策だが、人間ピラミッドを作って上から覗く」
「時間もかからず手近にいけるな・・・覗けるのは何人だ」
「おそらく二人が限界だろう」
「4人は踏み台と言うことか。下策も聞いて置こう」
「力に任せてこの柵を破壊する」
おいおい、それは策と言わないだろ
劉曄に冷ややかな視線が注がれる
「中策を採用しよう」
その瞬間、誰が号令をかけたわけでもなくじゃんけんが始まる
長い死闘が続き、俺と曹昂が勝ち残った
いいのかいいのか、こんな美味しい役で
俺と曹昂が力強く握手をする
「友よ!」
「同士よ!」
負けた4人の視線が痛いが、勝ったものが強い
「ちゃんと代わってやるからしっかり支えてくれよ」
曹昂が勝ち誇った顔で指示を飛ばす
楽進と牛金が下段、その上に劉曄と賈ク
そしてその上に俺と曹昂が向かう
「しっかり支えてくれよ」
「さっさと登りやがれ」
「ぶもぶも」
4メートル近いところにある桃源郷の入り口を求めて俺は登る
横では曹昂も必死に登っている
メキメキ
「?」
静寂の中、聞いては鳴らない音を聞いた気がした
メキッメキッ!
「おい、やばいぞ!」
思わずそう叫ぶ
「ふんばれ!」
「無理だ!」
「ぶもぉ」
がっしゃーん!!
強固だと思って支えに使っていたその柵は意外にもろかった
俺と曹昂が頂点に達しようとした時に、柵は俺たちの重みに耐え切れず崩壊した
「いてててて」
「なんだよ」
てっぺんから落とされた俺と曹昂は柵の上にしゃがみこむ
後ろでも支えてくれていた同志達が倒れている
「きゃー、何よ何よ」
「ばかーばかー」
そんな俺たちの耳に黄色い悲鳴が飛び込んできた
おお、桃源郷は存在したんだ
俺はその時のことを忘れないだろう
顔を上げて見たそこは美女三人が呆然と立ちすくんでいた
あの時のかわいい仲居さんが胸を揺らして湯船に飛び込んだ
ダブルSの姫がびっくりしてその場にしゃがみこんでいる
真っ白な綺麗なお尻だ
そんな俺たちの目の前に甄が怒りで般若のような形相で立ち塞がった
すごい、、、
俺は思わず生唾を飲み込んだ
一糸纏わぬ姿で甄が俺の目の前にいる
グラビアでは見ることの出来ない生の、、、生の、、、
鼻血出そう
「あんたたち、何をしているの!」
その氷よりも冷たく迫力のある言葉で俺たちは冷静に戻った
「何をしているのと聞いているのよ。あんたたち!!」
思わず6人全員で整列して直立不動を取ってしまう
「楽進!、説明しなさい!!」
「あ、いや、その、、、逃げろ!」
楽進のその言葉で俺達6人はその場から逃げ出した
そして俺は自室に戻って次の日には顔を合わせることなく帰っていった

しばらくして甄と陳宮と新しいメンバーで活躍するユニットが出たが俺はあの時のことが原因じゃないかと思っている

・・・おしまい