試合はまだ、前半が始まって10分経ったかどうかというくらいだ。 相手チームは既に、僕達と実に8点の差を付けられている。 選手達もボロボロで、絶望的な点差も併せ誰一人戦えるような…否、立ち上がれるような状態ではない。 一人を除いては。 『何故、まだ戦うんだい?君達の負けはもう、決まったも同然だというのに』 ゴールキーパーの命綱ともいえる腕も、もう疲弊しきっているじゃないか。 君の必殺技も、僕達の前では無力だと存分に思い知っただろう? 本当は、立つ事だってやっとだろうに。 ――キーパーは、最後までゴールを守り続けるものだ。 『止められないと分かっていてもか』 ――次は、止めてみせるさ。 『…その身体でかい?チームメイト共々諦めれば、楽になるというのに』 ――諦めないさ。皆の分まで、戦い続ける。 『面白い。それじゃあ…その判断の愚かさを教えてあげよう』 僕はゴッドノウズの構えを取った。 相手のキーパーは、無謀にも受け止めようと構えている。 あぁ、君の自慢のフルパワーシールドだったか、その腕ではもう使えないね。 その朽ち果てた腕で僕のシュートを止める事など無理だろう。 ほら、ね。 ――っぐぁあっ!! ゴールネットにキーパーの身体ごとボールが突き刺さる。 何とか立ち上がったようだが、その右腕は力なくだらりと垂れ下がっていた。 『その腕ではゴールは守れまい』 こわれた人形のように無様に腕をぶら下げる様が滑稽で、クスリと笑う。 しかし、彼が次に放った言葉は僕の神経を逆なでするには十分で。 ――…右腕が壊れても、左腕がある。 『それじゃあ次は、左腕も壊してあげようか』 ――腕が壊れても、足も、頭も、身体もある。 そう言った彼は、なおも口元に笑みを浮かべていた。 何故だ。巻き返す事はおろか、抵抗すら不可能であろうはずなのに。 『…何故、そこまで立ち続ける?』 ――王の称号を背負っている以上、引き下がるわけには行かない。 『王、か。笑わせてくれるね』 王といえど、所詮は人の子。神の圧倒的な力には、敵うはずなどないだろう。 流石は影山総帥を裏切った愚かな連中だな。 『人の王が、神の力に叶うとでも?神に歯向かった愚か者の末路を身をもって教えてあげよう』 ――それならば、最後まで足掻き続けた愚か者の姿を、お前の記憶に焼き付けてやろう。 そうして彼は、かろうじて利く左腕を構えた。 右腕は今なお、力なく下がっている。 …気に入らない、その微笑み。 ……気に入らない、その態度。 ………気に入らない、何もかも。 打ち砕いてやろう、その自信も、希望も、全て。 『ゴッドノウズ!!!』 ―源田!! 背後から声が聞こえた気がした。 しかし、その声も全て、神のシュートの前にかき消された。 目の前のゴールキーパーは、尚も無謀に立ちふさがっていた。 ・ ・ ・ スタジアムが静まり返る。 グラウンドは抉れ、ゴールなど跡形もない。 ゴールがあった場所には、彼が倒れていた。 ピクリとも動かない。気を失っているのだろう。 誰がどう見ても、試合続行など不可能だ。 審判は、帝国の試合続行不可能と、僕達の勝利を告げた。 『総帥が以前率いていたチームだから少しは期待したんだが…期待はずれだったな』 立ち上がれないスタンディングメンバーの代わりに来た帝国のベンチメンバーと試合終了の挨拶を交わす。 怪我で試合には出られなかったというキャプテン・鬼道有人が僕達をゴーグルの奥から睨んでいた。 それを尻目に僕はチームメイト達と共にグラウンドを後にする。 ―無様なまでの負けっぷりだったぜ アポロンが笑ってそう語る。 最もそのすぐ後にアレスがもう少し暴れたかったと零し、アポロンがそれに賛同してアルテミスにたしなめられるのだが。             ―それならば、最後まで足掻き続けた愚か者の姿を、お前の記憶に焼き付けてやろう。― 脳裏に、彼の声と不敵な笑みが蘇えった。 …気に入らない… 『源田 幸次郎…か…最高の愚か者として、名前くらいは覚えておいてあげよう』 神に逆らった、愚かなる人の王の末路を。ね。 ===== ちっとも源照じゃないけど源照黎明編。 源田をあそこまでボコにしたのは絶対てるみちゃんだろうなぁと思いつつ。 源田は「キングオブゴールキーパー」の称号を背負っているんだし、鬼道さんは今回試合に出られなかったしで、負けを認めたり引き下がったりは出来ないんだと思ったんだ。 チームの為にも、己のプライドの為にも。 切実に文才が欲しいなぁ。