人類文明の故郷といえばギリシャです。その古代ギリシャを遥かに遡る紀元前20世紀頃から、エーゲ海に浮かぶクレタ島ではヨーロッパ文明発祥のミノア文明が花開いていました。 そのギリシャのクレタ島にイカロスという少年がいました。イカロスのお父さんのダイダロスは知恵がある人で、どんなものでも作ってしまうという物作りの名人でした。   ある時、お父さんのダイダロスは、ふとしたことからミノス王を怒らせてしまい、息子のイカロスと一緒にお城の中に閉じ込められてしまいました。そのお城というのは周りを海にとり囲まれた、出口が一つしかない所でした。   窓から広い海を眺めていたお父さんのダイダロスは息子のイカロスを連れて、何としてもそこから逃げ出したいと思いました。 「そうだ、あの鳥たちのように空を飛んで逃げ出そう。」お父さんは窓に落ちる羽根を拾い集め蝋で固め、鳥たちよりももっと大きな翼を作ることを思い付きました。   苦心してとうとう翼が出来上がりました。親子は喜び勇んでそのお城の一番高い窓から飛びたつことにしました。けれどもその前にお父さんのダイダロスは息子のイカロスにこう言いました。「あまり高く飛ぶと、太陽の熱に焼かれて蝋が溶けてしまうぞ。そうしたら翼が落ちて、私たちは海に落ちて死ななくてはならない。くれぐれも気をつけるんだよ。」そして二人は飛び立ちました。   青々とした海の上を高く高く飛んでゆく喜びでイカロスは夢中になっていました。そしてもっともっと高く高く、雲の上まで、そして太陽の方まで昇っていこうとしました。その様子を見てお父さんは思わず叫びました。「おーい。そんなに高く昇っては危ないぞー。もっと低く飛ぶんだ、もっと低くー。」けれどもイカロスは空を飛ぶことに夢中になって、お父さんのいいつけなどもう耳に入りませんでした。とたんに太陽の熱で蝋で固めた翼は溶けてしまい、イカロスはまっさかさまに海に落ちて死んでしまいました。 お父さんのダイダロスは、悲しみを抑えて飛び続け、シチリア島に降り立ち、イカロスが墜落した辺りを訪ね、その海に死んだ息子の名前をつけて悄然と立ち去ったと言われています。ギリシャの東に浮かぶイカリア海(イカロスの海)がそれなのです。 太陽をめざしたイカロスの夢は、人間の歴史とともに生き続けています。エーゲ海のクレタ島に生れて、イカリア海の藻屑と消えた"宇宙への翼"に対するイカロスの憧れが、人類の記憶から消え去ることはありませんでした。 ミノス王は王女アリアドネをダイダロスの手引きで奪われたと誤解した事がそもそも親子が幽閉される事の由来であり、これが"イカロスの翼"の発端だったのです。