築100年とか200年とか言われる古い旅館
いわくだけは掃いて捨てるほどあるらしい
大政奉還の密談はここで行われたとか、マッカーサーがこの温泉に入るためにGHQ代表になったとか
眉に唾つけておかないといけないけど、そんな嘘が通りそうな雰囲気がある古い旅館
大きくて綺麗な露天があるおかげで四季を通じて客足が途切れることは無い・・・らしい
私が腰痛でダウンした親戚のおばちゃんの代わりに来てから3日、お客はこない
今日も事務室から雪を眺めている
「くそー!!」
そんな静寂を破って若い男の人が吠えている
え、この旅館の前?
あの人、、、お客さん?

ダブルS特別編〜ごめんなさい、ごめんなさい〜

さっきの吠えてた若い男の人
やっぱりお客さんみたい
女将が宿帳を差し出して記入してもらっている
その後部屋に案内するのは私の役目
うう、初仕事がこんな、、、なんていうか、、、はう
案内する部屋を女将が指示する
え、、、その部屋って、、、そういう判断なんですね
2階の一番奥の小部屋、危ないと判断した人が通される部屋
そんな人の前に立って案内するなんて、緊張する
しかも後ろで歩いている人が何か呟いてるし、怖いよ
何とか部屋に案内して、必死に覚えた説明をする
その間、目の前の男の人がうつろな目でじっと見つめているんですよ
いつでも逃げられる準備をして説明を終えて、ようやく部屋から逃げられました
怖かったー
「女将さん、いいんですかあんな人を泊めても?」
事務所に戻った私は女将に聞いてみた
そうしたら女将は、よくあることよって
そうなんだ、、、
そのとき玄関が賑やかになってきました
覗いてみるとお客さんだ
一人二人、、、八人かしら
「女将さん、お客さんが・・・」
振り向いた先に女将さんはいなかった
すでに玄関先で宿帳を差し出している
「は、早い・・・」

女将さんと仲居が私一人なので団体さんが来たら玄関先で説明を行うことにしている
「晩御飯は部屋食になります。6時ごろにお持ちします。それと・・・」
細かな説明をしながらふと思った
なんだか見たことがあるような気がするんだけど、誰だったかしら?
「・・・です。露天風呂は24時間は入れますけど、雪で迷うと危険なので吹雪のときはご遠慮くださいね」
説明を終えて、8人のお客さんを部屋に案内する
女性二人と男性六人なので男性を2部屋、女性を1部屋で別れてもらう
1階の松と桐に男性を案内して、女性を一部屋はなして牡丹へ案内する
今まで暇だったのが嘘のよう
今日は忙しくなりそう

晩御飯の時は戦争よ!
組合のほうからお手伝いの人が二人着てくれたけど、初めてなので大変
新米の私は比較的楽な女性部屋を担当にしてもらいました
それでも緊張ー
「失礼します」
声をかけてから襖を開ける
「お食事をお持ちいたしました」
お膳を中に運び入れて、、、入れて、、、あっ!
「あ、あの、ひょっとして、あの、、、」
緊張してうまく舌が回らなくなっちゃった
それを見てにっこり微笑むそのお方
マフラーとサングラスを外したその顔は何度かテレビで見たことがある
「ダブルSの甄さんと姫さんですか?!」
思わず仲居の仕事を忘れてしまいました
「えへへ、そうだよ」
それから緊張して、何とかお食事を置いてようやく準備が整いました
「それではごゆっくりどうぞ」
本当は出たくなかったけど、仕方ないわ
部屋をでて、それじゃ残りの6人はダンサーズなんだと改めて気がついた
うわぁ、すごい
このことブログに載せちゃおうかしら?
ダブルSが泊まってるって、、、だめね
そんなことしたらみんなに迷惑かけちゃう
私だけの秘密にしておこうっと♪

30分ぐらいして、お膳を下げていいか伺いに行く
「お食事を下げに参りました」
中に入ると食事は終わっているようでした
でもなんだか様子が変
甄さんが困った顔で立っているし、姫さんは半べそかいている
立ち入っちゃダメって言われているけど、気になる
「あの、どうかしましたか?」
「ああ、仲居さん、、、実はね・・・」
「あのね、あのね、あたしのお気に入りのイヤリングがなくなっちゃったの、お気に入りでいっつも持ってたのに、食べて立ち上がったら無いの」
「だから、そろそろピアスにしたらって言ってるのに」
「だって、穴開けたら痛そうだもん」
どうやら食事中にイヤリングが落ちてなくなったらしいですね
私は立ち上がって姫さんに近づいて、髪の中に光るそれをつまみ出す
「あの、これですか?」
「あ!」
「うん、そうだよ!」
二人がそれを見て驚いて、そして笑った
「下ばっかり見てたから気がつかなかったわね」
「ありがとう、ありがとう」
姫さんが私の手を掴んでぴょんぴょん飛び跳ねている
「いえ、そんな。たまたま見つかっただけですから・・・あの、お願いしていいですか?」
私は後ろに隠していたそれを二人の前に差し出す
「インディーズの頃からのファンでした。サインお願いします!」
「まあ、インディーズの頃から知っててくれたの?」
「はい!1stマキシを聞いていっぺんにファンになりました」
「えへへ、下手だったのに恥ずかしいな」
「そうそう、、、っとサインだったわね」
「わぁ、名前なんて書いたらいい?」
二人でさらさらっとサインをしてくれる
「あ、真音でお願いします」
それを聞くと姫さんが最後に名前を入れてくれた
「大親友のまおちゃんへ・・・」
うそー、そんなことまで書いてくれて感激ー!
そしたら甄さんが更に書き加えてくれました
「二人の」って
もう家宝決定です!

お布団を引いて後片付けをして、明日の準備を終わらせた時にはもう11時になろうかとしていた
3日間は楽だったけど、その分の付けが回ってきた感じね
「お疲れ様、明日もよろしく頼むわよ」
女将がそう言って今日の仕事が終わった
「はう、疲れた」
私は汗を流してさっぱりしたかったのでそのまま露天風呂に向かう
着物を脱いでかけ湯をする
「あー、気持ちいい」
湯船に浸かって思いっきり背伸びをする
「今日はびっくりしたなぁ」
自殺志願みたいなお客さんは来るし、ダブルSの二人に会えてサインまでもらっちゃって
うふふふ
なんか自然に笑いが出ちゃう
「甄ちゃん、早く早く。先に行ってるよ」
脱衣所からそんな声が聞こえると姫さんが走ってきた
あ、走ったら危ない、、、って遅かった
「いったーい」
見事に滑って尻餅をついちゃった
「大丈夫ですか?」
「あ、まおちゃんだ。えへへ、大丈夫だよ」
そう言って立ち上がると、ガッツポーズをとる
大丈夫だって言いたいみたい
でも、そんな格好したら丸見えだよ
グラビアとかでは甄さんが目立つけど、こうして見たら姫さんも形が良くて綺麗な胸をしてる
均整も取れてて、おなかに無駄なお肉も無くて・・・うらやましい
「もう、まおちゃん。そんなに見つめたら恥ずかしいよ」
そう言って両手を胸の前で交差させる
「あ、ごめんなさい」
「えいっ」
ちょっとした瞬間に姫さんが湯船に入って私の背後に回る
「う、まおちゃんの方がおっきい」
「え、ちょっと、そんなさわったら・・・」
背後に回りこんだ姫さんが後ろから抱き着いてくる
「もう、うらやましいな。こんなに大きくて」
もう、揉んじゃダメだって
「でも、姫さんのほうが綺麗なプロポーションですよ」
「ん〜でも、胸は大きくならなかったよ、、、全然生えなかったし。子供みたいで嫌だな」
「おなか摘める方が嫌ですよ」
「二人で何のお話?」
甄さんがタオルで前を隠しながら入ってくる
「勝てないよね」
姫さんがぼそっと呟いた
「そうですね」
不公平ですよね
あんなに大きな胸なのに形も崩れないでしっかりしてて、腰もくびれてぼっきゅっぼん
私と姫さんは大きく溜息をついた
それから湯船に浸かりながらいろんなお話をしてもらった
芸能界のこととか、レッスンのこと
その後は3人で背中の流しっこもさせてもらった
二人とも肌がスベスベですごく丁寧にお手入れしてるんだなって思ったわ
これだけしないと芸能界でやっていけないのね
なんだか悔しいから、甄さんの背中を流してた時に手が滑ったフリをして胸を触っちゃった
すごくやわらかかった、もうマシュマロみたいな胸ってこういう感じね
ついいつまでも触ってたら甄さんに手を叩かれちゃった
「もう、姫みたいなことしないの」
「あ、まおちゃんも甄ちゃんの胸触ったんだ」
「え、ええ。ごめんなさい」
「謝らなくてもいいよ、触りたくなるおっきな胸してる甄ちゃんが悪いんだからね。あたしも一緒にシャワーの時とか良く触らしてもらってるよ。そうしたらあたしのも大きくなるかもしれないからね」
「もう、恥ずかしいことを言わないの」
「えへへ」
姫さんが笑って甄さんも笑って、つられて私も笑い出した
そんな3人の笑い声が大音響で途切れる
隣の男風呂で「流されちまえ」って聞こえたと思ったらすごい音がしたの
「あんたたち、何やってんのよ!静かにしなさい!!」
甄さんが隣に声をかける
「まったく、うちの男共ね」
「なんだか楽しそう」
姫さん、それは違うと思いますよ
そうか、隣にはダンサーズの皆さんがいるんだ
「ごめんね、騒々しい連中で」
「いえ、そんなこと無いですよ。ダンサーズの皆さんも大好きですよ」
背中を流し終わって湯船に向かう
「わー、お星様いっぱい♪」
姫さんが夜空を見上げる
満天の星空
「東京じゃこんなに綺麗に見えないわね」
そうなんだ、いつも見ているからこれが普通だけどそうじゃないところもあるんだ
メキメキ
「何の音?」
軋むような変な音が聞こえる
3人があたりをきょろきょろと見回す
メキッメキッ!
だんだん大きな音になってくる
「おい、やばいぞ!」
誰かのそんな叫びとともに目の前の竹の柵がゆっくりと倒れてくる
「え、え、え、え!?」
私たち3人はその様子を呆然と眺めている
「ふんばれ!」
「無理だ!」
「ぶもぉ」
がっしゃーん!!
その時、信じられないことが起こった
竹の柵が倒されて、男湯と女湯が一つに繋がっっちゃった
「いてててて」
「なんだよ」
あれは自殺志願者の人とダンサーズの曹昂さんだ
その向こうにはダンサーズのみんながいるみたい
ダンサーズ、、、だんさーず、、、
「きゃー、何よ何よ」
「ばかーばかー」
あまりのことに立ちすくんでいた私と姫さんが正気に戻って悲鳴を上げる
私は反射的に湯船に飛び込んだ
姫さんはその場にしゃがみこんで向こうに背を向けている
何よ、一体どうしてこんなことに?
パニックで何がなにやらもう解らない
そんな彼らの前に甄さんが立ち塞がった
私たちを庇ってくれているの?
でも、甄さんも何か隠さないと・・・
「あんたたち、何をしているの!」
その声に場の温度が一気に下がったのがよく解るわ
私も甄さんに声掛けられなかったから
「何をしているのと聞いているのよ。あんたたち!!」
その言葉で彼ら6人が操られたように直立不動で整列した
え、何あれ?
6本も上向いて、やだ、すごい、、、
あれなんで、あんなになるの
大きさもみんな違うし、えー、えー
「楽進!、説明しなさい!!」
「あ、いや、その、、、逃げろ!」
私はそのあまりのインパクトにそのまま湯船で倒れたらしい
気がついたら部屋で寝かされていた
すでにダブルSのみんなは帰ったらしい
女将には文句を言われたが、それだけだった

しばらくして腰痛の治った親戚のおばちゃんが復帰して私の短いバイトは終わった
今でもあの時のことは夢だったんじゃないかと思ってしまうけど、私の部屋にはあれが残っている
甄さんと姫さんにもらった私の家宝が

・・・おしまい